パーカッションのルネサンス 36

パーカッションのルネサンス
打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第36回
• 芸大の打楽器講座:UP感覚を体感するために

有賀誠門(打楽器奏者)

1983年、東京芸術大学が一般社会人を対象として公開講座を開くことになりました。その一番手として打楽器講座が選ばれましたが、非常に好評を得てその責任を果たしました。今年、12年ぶりに打楽器講座を開くことになり、今回その経過報告をしたいと思います。日時は7月31日、8月1日、2日の3日間、朝9時から夕方4時までと集中的に行なわれました。受講された方は、10代8名、20代11名、30代13名、40代6名、50代4名、60代6名、70代2名、の50名でしたが、10代から70代と年齢の幅が広かったことが 特徴でした。講座のタイトルは「リズムの原点を求めて ― 日常のソルフェージュ」としました。

 第1日 リラックス ―動きの気づきとリズム感
 第2日 リズム感と音楽表現 ―自然体と音楽表現
 第3日 合奏実技

 これを大体の目安とし、そのつどの即興を大切に行ないました。参加された方々の雰囲気が非常に大切なので、当日までどのような「気の場」がつくれるか心配でしたが、この心配は無用でした。受講者が実に積極的であり、向学心に燃えていたからです。遠く九州からも2名が参加されたことがそれを証明しています。また東京農大名誉教授の方や、書道の先生、ダンサーと、参加者は実にバラエティに富んでいました。

 まず、床に大の字になりすべての体重を地球にあずけます。野口体操の動きの一つ、体に水が一杯入っている。皮袋の水を動かすようにゆらゆらと動かしてみ る。ふだんやらない動きなので、とまどう人もいましたが、年配の方々が実に見事に動くようになったのは嬉しいことでした。まずリラックス、リラックス・・・血が勢いよく流れるためには血管がよくなくてはなりません。血が酸素を全身に循壊させています。循環させているのは心臓であり、呼吸なのです。

 次に「気」との交流をします。人間の体は折りたたみ式にできています。床に正座し、上半身をゆっくり、気を吐きながら前に倒していきます。両手を前に投げ出しひれ伏す形になります。0(ゼロ)の状態から、頭を最後に上げるように起きあがります。大地から気を取り入れつつ。目は前方を力むことなく、しかし、しっかりみつめます。上半身は気で一杯です。膝を支点にしつつ上半身を上げます。膝から上に気が入る。足を立て、左足を立てます。左足襄、膝、腰、足指先に十分注意する。左足を支点に右足を立てる。上半身、下半身を立ててくることによって、両手以外は気で一杯です。

 さて、 両手を上にあげることによって全身に気が入ります。気が充実したところで、「ハツ」と気合を出し、両手をあげ跳びあがり、肉体は地から離れます。着地の時は左足を前、右足は後方に引き、大地にしつかりと根がはえたように踏み込みます。両手は上に伸ばし、指先まで気を一杯に張ります。上半身は反りますから目は上方をみることになります。丹田に気が入っていないと倒れます。両手を振り動かす。気合と共に足の入れかえ。できたらUターンのジャンプも試みてみる。左右の足は大地につけたまま、天に向けた両手の気をおろします。ただし他の精気はぬかない。一つひとつ気を返しつつ、元に戻ります。気に満ちた自然から気を借りつつ、気を体に一杯にし、発散させる。即ち自分を活かし、活かされていることへの感謝の姿になる。ひれ伏し頭を垂れる姿は感謝への象徴的な形であり、礼となります。

 前進運動は前が開かれた形、反った状態になります。右手は右→→、 左手は左 ←と、 ← →となり、上(頭)は反り足も反る

となります。体が伸・縮と動く。体にかけたカバン等が動くたびに離れ、着くを繰り返えすのと同じです。

 声をかける運動を試みます。 声がなかなかUp感覚で出せない。名古屋からこのためにかけつけてくれた弟子が模範演技をします。できたところで、体の伸縮運動をしながら、ベートーヴェンの『歓喜の歌』を歌いあげる。ロック調の「のり」のいいリズムができ上がる。そんなところへ、生涯学習というテーマでテレビ東京が取材に来ました。次にドコダ、ドコダ・・・と声を出しつつ両手を交互に(右左右、左右左)動かす。なかなかできませんが、位置の移動というイメージを与えることにより、だいぶ「のり」が出てきて、ある年配の方はロック歌手さながらのパフォーマンスができるようになってしまいました。最後は、音にすることによってより響きが豊かになってきました。何より嬉しかったのは、打楽器をうるさく打とうとしないことでした。全員でティファナ・サンバを演奏し、歌い、踊り、Up感覚を体感してもらいました。クラシック音楽がこんな感覚でできたら最高です。

 

(1996.10)