パーカッションのルネサンス 44

打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第44回
•「音楽の基礎は肉体である、ということ」

有賀 誠門(打楽器奏者)

ふつう、レッスンというと、先生と生徒の1対1の関係が成立していますが、 私のレッスンはほとんど1対3~5で成 り立っています。

何よりまず大切なのは、音楽の基礎は 肉体であることをしっかりと認識させること。何気ない「しぐさ」にかくされた息遣い、意味に気づかせます。様々な日 常の行動を注意深く観察させ、自分の行 動の不自然さに気づかせます。自分の体の秩序や、システムを体感することが最 も大切なことに気づきます。自分の体について無知であってはなりません。なぜなら、それが音楽であろうと何であろう と、すべての行為の基礎であり、本当の ものの基礎であると思うからです。体について知らないのは自分のことを知らないのと同じで、他人のこともわからない と思います。律動感は活力を表わします。 律動感は Up 感覚です。息遣いが変わり、 常に新しいビートを打ち出します。日常 が逆であることに気づくまでかなりの時 間を必要とします。

数人の高校生と、レッスンの合間に音 楽の授業の話しになりました。あまりに 悲しい現状に言葉がありません。上に立つ人のリズム観(感)により、これほど までに変わってしまうとは……。

学生A 不満1. 小さい時によい先生 に教わる機会がない。つまらない先生に 教えられ、音楽の興味をもてない子どもは「才能がない」とレッテルをはられ、 その後クラシック音楽に背をむけて人生を送る。

不満2. ピアノ等「おけいこ」ごとに 多いことだが、ファッション感覚で音大 を出た奴がアルバイト感覚で子どもを教 える。子どもを教えるというのはそんな 軽いことじゃない。そして、その子ども が成長して似たように子どもを教える。 そんなサイクルの中には何ら創造性はない。ネズミ講みたいなものだ。

不満3.クラシックだから素晴しい、 クラシックだから清く、正しく、美しい。 といった偽善的な虚構狂信者が多すぎる (とくに中年女性)。そういう人たちは、 演奏の善悪に関係なく同じ反応を示す。 そういうのに限ってロック世代をバカに する。クラシック音楽を本当に楽しんで いないという意味ではどちらも同じレベルだ。

まとめ~いまの社会状況や価値観、 人の考え方は昔の人とは、大きく違って いるのだから、それを埋め合わすために ももっと純粋に音楽を楽しむことが大切 だと思う。クラシックだって数百年前は駿新の音楽だったのだから。内輪だけで 支えられているような状況は創造的じゃない。

学生B ・教科書に載っている教材は つまらないものばかりで型にとらわれすぎている。

・リコーダーと歌しかやらない。

・皆でやるというグループ感がなく、 先生1人でやっているように見える。音楽が不得手な人はその時点で音楽と離れてしまう。
・テストや単位のための授業でなく、 みんなで楽しめる音楽にしてほしい。

・先生が正しい? エライ? 「ここはこうですか?」と質問したら、 「できるような顔するな!!」とどなられて しまった。

学生C ・音楽テストで、先生の教えた通りの曲想でないと下手というのはお かしい。

・歌を歌っていると「ロックとか歌謡曲とは切り離して考えろ」と言われる。

・神奈川県で行なわれた音楽テストで、曲の読み取りの問題が出た。「これは どのように歌いますか?」という問題に答えを「四つの中から選べ」みたいなも のばかり。これならやらない方がましだ。

・「なぜ、このように読むのですか?」
と言うと「模範解答にそう書いてあるから」と言われ、やる気をなくした。

学生D 学校教育に基づいて生活を送 っていくと、音楽は、音楽でなくなり、 ただの「音楽という数学」になってしまう気がします。また楽典やソルフェージ ュばかり教えられます。文法ばかりで音 楽にはならないと思います。Down の感 じのつまらないクラシック音楽の演奏で は小・中学生は絶対に音楽が好きになら ないと思う。そのために演奏家は楽しく 音楽を演奏しなければならないのです。 そうしたら、きっと心から音楽を愛せる 人が増えると思います。とにかくたくさ んの様々な音楽を聴き、いろいろな楽器 にふれてみて、体を動かしながら音楽を 体で感じたい。そういう音楽を聴きたい と思います。

以上を読んでどのような感想をもたれたでしょうか? Down 感覚は意識が固 定化し、柔軟性に欠けます。 Up 感覚のリ ズム感は心を解放させ、常に前向きにさせます。音楽の質が変わります。人間を 変えることができます。心のリハビリに よってより横極的な考えをもち、行動を するようになります。歩き方も変わります。 Up のリズム感は社会を積極的にさ せ、音楽は生きかえります。

 

(1997.6)