パーカッションのルネサンス 41

打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第41回
•「ノーベンバーステップス」のリズムとテンポ2

有賀 誠門(打楽器奏者)

今回は“響”を聴きましょう。

通常の 三和音はまったく使われていません。獨音が主となっています。三和音の中の異音は「安定」をより強く印象づけるために不安定を効果的に使っていました。

音楽表現法の一つ、トーンクラスターは、主として不安定、緊張の心象風景をあらわします。硬質な音響を感じさせます。クラスターで書かれた現代の代表的作品は、ポーランドの作曲家 K. Penderecki の『広島の犠牲者に捧げる哀歌』でしょう。

弦楽器群によるトーンクラスターが強烈な印象を与えます。この曲をはじめてコンサートで聴いたとき、この世の音楽とは思えませんでした。

同じトーンクラスターでも O. メシアンは官能の世界に導いてくれます。彼独自の音楽語法を確立した人です。私の好きな1曲、『われキリストの復活を待ちうける』 (Et exspecto resurrectionem nortuorum)を聴いてみて下さい。

さて、武満徹はどうでしょう。私のイメージでは軟質だと思います。「青空に浮かぶ雲」とでもいえましょう。西洋にない感覚をおぼえます。

この曲は、テンポがゆっくりで拍を感じさせないのでリズム形の微妙な「ずれ」 が特徴です。「浮空に浮かぶ雲が“時”にわずらわされずに形を変えて行く」、眺めている時間がない如き、時が過ぎて行く。

西洋の音楽表現媒体、オーケストラに実に繊細な行為を要求しています。一人ひとりが確固とした個性をもち、“和”を感じるオーケストラですと、すばらしい sound が期待できます。

冒頭の音列を見て下さい(譜例1)。 「→」による持続音に対して一群と二群の弦楽器の音列です。

譜例2は3:2のリズム形に対して音群の流れです。横(右への動きが有機的なのがよくわかります)に十分注意して 下さい。

この作品ではハープが実に効果的に使われていることにも注目したいと思います。こする弦楽器群に対して一つの注意点を与える ― ハープ奏者にとって嬉しいでしょう。センスも問われます ― 重要な役割をになっています。

尺八と琵琶の関係は、尺八が先導しつつ、琵琶が応答していく。オーケストラの風景が流れる。しばしのあと、二つの楽器によるカデンツァは見事な演出です。日本の音響が世界に広がる!

最近では外国人で尺八、琵琶を演奏す る人たちも増えました。このような人たちによる演奏も聴いてみたいものです。

 

 

(1997.3)