パーカッションのルネサンス 38

打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第38回
•ヴィヴァルディの「冬』をUp感覚で歌えば

有賀 誠門(打楽器奏者)

 先月号では、ある大会で手のあげ方がなってないという話をしました。その二週間後、今度はある音楽療法セミナーでおよそ50~60人を前にして「リズムの原点を求めて 上の発想と下の発想」と題して、日常の何気ないしぐさや動作からリズム感を説明し、身体と心を使って実体験してもらいました。反応はすばらしく、人によってこれほど違うものかと、あまりの違いにびっくりしました。

 お互いに理解し合い、2時間を実に有意義にすごすことができました。積極的であることは人間を変えてしまいます。

 その時のディレクターからの手紙の抜粋です。「・・・文明人になるほどリズム感を失う、と申しますが、本源的な人間の中に流れるリズムを正しい方向へと求めることにより、曲折する人間の心や身体を整えることが大切と、一同意欲を増しております。2時間の講話が楽しく、またたく間にすぎましたが、ふだん気づかずにすごしています中に、多くの大切なことごとを置き去りにし、歩んでいる現代人の病んでいる部分が浮き彫りに示された感じです。(後略)」

 Vivaldiの「四季」に出てくるリズム形は極めて単純であります。しかし音楽は幼くなく、人間性、精神性と私たちを解放してくれます。

 さて、『冬』の第1楽章からみましょう。楽譜1のテンポと推進するビート感はどのようにとるか?ヴァイオリン・ソロ(楽譜2)を歌ってみれば、およその見当はついたでしょう。C→Cとオクターヴが積極的な音楽を要求しています。冒頭は、緊張と寒さを表現していますから、のんびりした1、2、3、4というcount感はふさわしくありません。4拍子ですが

とできるだけ短かく表現してみて下さい。

 わかりやすい例として、エンピツで、✓、✓、✓、✓と鋭くcheckするfeelingで
書いてみて下さい。

 集中した息使いが大切です。

 楽譜3のリズム形もmolto marcatoです。一つひとつの音をより鮮明に発音しましょう。推進するビートに注意することです。楽譜4の場合もup bowで鋭いfeelingを出すことです。

 有名な第2楽章をUp感覚で演奏しましょう。まず1st Violinと2nd Violinのpizzicatoのfeelingをどう読むかで違いが出ます(楽譜5)。5度、6度の緊張がテンポに張りを与えます。4度、5度、6度と続くことである動きを感じることでしょう(楽譜6)。

 2拍でdown感覚にならないようにしましょう。「Largo」にこだわってあまりにおそくなりすぎないようにして下さい。8小節の大きなフレーズを歌いあげ、歌い切って下さい。pizzicatoのリズムが「のり」をつくつてやることです。

 暖炉の火がパチパチとはじけている様子が出てきたと思います。曲の最後は

ですから、

の1小節前をあまりゆっくりにならないようにすることです。

 いよいよ『四季』の最後、第3楽章です(楽譜7)。6度の関係が能動体のリズムとビートを表わしています。3拍はupになるのは当然ですね。楽譜8でten-sionが下がらないようにすることです。楽譜9では十分に跳躍の時間を考えてやって下さい。楽譜10ではビートをしつかりとることです。

 最後の風は1、2、3の1で巻きます。2、3のビートをしつかりとり、3はUp感覚です。

の感覚でやると非常に効果的です。同じ音の連続のところも同様の感覚でやって下さい。楽譜11の音形でくずれないこと。最後のFに入る前、一瞬のブレーキが入ると申し分なし。

 

(1996.12)