パーカッションのルネサンス 4

打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育-連載第4回 -「Up感覚」のはなし-

有賀 誠門

 第9交響曲が登場しましたので、歴史の話は次にして、この曲を材料にして私なりのリズムの読み方と発音のイメージを紹介します。たとえばl、2・・・・・・と数える場合、イ↓ チ↑ ニ↓ イ↑ サ↓ ン↑……と、2拍子にしても、イチ↓ ニイ↑イチ↓ ニイ↑ …••• と頷く動きです。この「数えている運動」をわかりやすく図にしてみましょう。右手にチョークを持ち、真横に手をあげ、黒板にチョークがあたるようにして、1、2、1、2・・・ と数えてください。

 と、やや下降気味になっていくのがわかったと思います。この運動でいきますと、第1楽章(楽譜)①の音形が下にはまっていくのです。

さらに②のオクターヴによる音形が重くなり、Ⓐの主題が呈示される前が何ともいえぬ重さになり、③の音が短かくならず、「ズー」と長くなってしまう。従って主題に入るために疑心暗鬼の合わせ方になりやすいのです。

しかも主題

のA音も下へのエネルギーが強いため重く、平面的な響きになりやすいのです。

では、反対の運動を試みてみましょう。

 不思議とやや上の方向に移動していくのがおわかりでしょう。先ほどの①、②、③、そして主題、を表現してみますと、主題に入る前の音が短く表現できるのです。よって「短い」という音の現象は、Up 感覚の表現であることがおわかりいただけたと思います。

 足の運動も最も大切なことです。1、2、……と足で数えさせると膝を曲げる運動をする人が多いのです。この運動は下へのエネルギー運動であり、膝を伸ばす方は上へのエネルギー運動になります。ハンカチ、紙、紐等を持ち、左右に引っ張りますと音がします。すなわち、この運動は自分の体をひろげる運動であり、前に進む運動でもあり、上に跳んだ状態でもあります。

 
 あお向けに寝た状態でやってみてください。さらに、うつぶせの状態でやってみて下さい。何か感じられたことでしょう。頭で考えたことでなく体を動かしてみて体で知ったことは体がおぼえているのです。

 このUp 感覚は、歩く運動からも体感することができます。膝をあげ、垂直になっていた腿が横になるくらい(90°)に左、右の足を上げ下げしてください。床に足の裏があたり音がします。両方の手の平を腿の所にもっていきますと、腿と手の平の間で音がします。そのリズム感がウラ打ちになっているのがわかると思います。すなわち、歩く運動は「あと打ち」を作っているのです。歩きながら、手にもったハンカチ、紙、紐等で音を出してみてください。

 体を開いた時に音がするのがわかります。したがって、首から上もup、down、up、downの動きになり、普段我々の日常生活と反対の動きになるわけです。声の発音がちょうど動物の動きと同じになります。この要領で第1主題を歌ってみると、長い音符が明るく支えのある響きに変るはずです。下から湧き上がってくるリズム感を感じるはずです。

ここでもう一つの試みをしてみましょう。右手と左手の手の平を合せ、打ってみてください。両手の平の間で音が創られました。手の平を上に向けて下さい。手の平でつくられた響きは手の平が上を向いていますから上方にあります。今度は打った手の平を下に向けてみましょう。響きは下方にあります。たくさんの拍手をもらったり、相手をたてたりする時に手の平を上にむけて動かします。

反対に、静める時には下に向けます。音楽は響き渡るものですから、できるだけUp感覚が望ましいのです。打楽器の場合、打つという行為がほとんど上から下への運動のため、打ち捨てにする人が多いのですが、そうでなく、響き(音)を立てる↑ イメージが最も大切なのです。打っただけでは、ただの雑音です。楽器の中から響きを引き出し、引き立てることによって、すべての響きと共鳴し得るのです。それにはまず、自ら体を柔軟にして振動を受けとめられるようにすることです。風が吹くことによって旗もなびき音を立てます。気の流れこそ、生きとし生きるものを活かすことになります。音楽をこの発想で読むとより立体感のある響きをつくることができます。

(1993.2)