パーカッションのルネサンス 42

打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第42回
•「サイクロイド曲線はUp感覚」

有賀 誠門(打楽器奏者)

Up 感覚について、かなりの例を挙げて説明してきました。しかし、文字に書いただけでは頭で整理するだけで、体と心で覚えることができません。いままで 多くの学生を指導してきましたが、ほとんどの人が頭に一発「ガーン」とくらい、 ショックを受けるようです。

いままで常 識としてきたことが、くつがえされてしまうからです。もう一度ゆっくりと意識感覚を立て直すことになります。生活の基本リズムだけに最も大切です。根本を感覚するようになればあとはマイペースでゆっくりとレッスンを繰り返していきます。ちょっとでも気を抜くと元に戻ってしまうのです。息使い、気使い、心使い……ですから。

面白いのは、レッスンに来た生徒たちが、われからさまざまなアイディア、動き、イメージなどを得、その時はできるようになるのですが、一歩私の家から出るとできなくなってしまう、と言っていることです。できた気になり「忘れないように」「忘れないように」と家に帰ってやってみるとできない、とのこと。彼らは「有賀マジック」と言っています。

Up感覚のリズム感は、あらゆるところに応用できます。E.ケーシーの「驚異の波動健康法」(J. B. バラード著、林陽訳、中央アート出版社)の中から、彼の言葉をひとつ書き出してみます。

「仕事の時にはよく歌うようにしなさい。自分に対してハミングし、歌うのだ。人に聴いてもらうためではなく、自分に 聴かせるためだ」

そう! 先日求めた『感覚の博物誌』 (D. アッカーマン著、岩崎徹、原田大介 訳、河出書房新社)の中にすてきな表現 がありました。「匂う」「触れる」「味わう」 「聞く」「見る」「感じる」の6章からできていますが、第4章「聞く」の中から。

「私たちが“音”と呼ぶものの正体は、寄 せては返す空気中の分子の波だ。大きさ にかかわらず何かが動くと周囲に波紋が 広がっていく。トラクターでもコオロギ の羽でも、まず何かが動いて、まわりの 空気の分子を振動させる。この振動が分 子から分子へと次々に伝えられるのだ。 音の波は人間の耳に打ち寄せて、鼓膜を 振動させる(以下略)」。

音程をあてるの でなく、どのような音なのか感覚するこ とが大切だと思います。また「別荘地であるいは人通りの多い路上で、ラジカセのボリュームをいっぱいにして音を流すのは、音楽好きの表現というより攻撃性 と支配欲の現れだろう……」

心理学者の A. ブロンザフトは「慢性 的な騒音にさらされた子どもは、より攻 撃的になり、健全な行動が阻害される傾 向がある」ことを発見した、とも書いています。

さて、ケーシーに戻ります。

「自然界におけるさまざまなリズムを よく観察することだ。掃除婦が床をみが いているところを見ても、優れた工芸家が自分の得意とするものを作り出しているのを見ても、その行動を価値あるものとし、本来の霊性を発揮させるに必要なタイミングというものを、よく観察しなさい」

「……音楽のほとんどの形を解釈すること、解釈する能力、これが基礎である。そのように、このことから始めなさい。これを徹底的に行ない、最も簡単なものから手がけ、いつでもそこに、心と体と魂の感情を解釈するようにしなさ い。その次にシンフォニーに入ってゆくのだ。それは、魂と心についてのより優 れた解釈が人を無限に対して同調させる手段である」

「あなたが研究し、準備して ゆくにつれて、音楽が高尚なものと低俗 なものとの間にある溝を埋める要因であることがわかってくる。音楽は激しい情熱を高め、獣的な情熱を静め、家を思い、 天を思い、愛する人々を思う気持ちを強 めさせる……」

「……音楽は、その人が最 もよく進歩するための水路なのだ」

Up 感覚のひとつに「サイクロイド曲 線」をあげることができます(上図は東 京芸術大学の『紀要』より拙稿の一部)。

「気づく」ことの大切さは、常に自然体 であることです。

 

(1997.4)