パーカッションのルネサンス 9

パーカッションのルネサンス
打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第9回
— 打楽器のための作品群

有賀 誠門

 L. ルッソロによって未来音楽の宣言がなされたにもかかわらず、ストラヴィンスキーただl人が打楽器を音楽として完全に新しい世界に導入していったのです。1918年に作曲された『兵士の物語』にはっきり認めることができます。この作品は『春の祭典』のような巨大なオーケストラに背を向けたもので、7人の奏者と語り手のために書かれました。1人の奏者が4個のドラム、タンバリン、シンバル、トライアングルを奏し、音楽の構成から必要欠くべからざるパートと評価されています。曲の最後は長いドラムソロで締めくくっているのです。1921年、ルッソロがパリで催した「未来音楽演奏会」は、世界をうならせるほどの反響を得ることはできず、多くの曲例が前衛音楽家のスタジオから発刊された〈Futurist Manifest〉により宣伝された機械音楽であり、マニアックなものでした。

 アルテュール・オネゲルは1923年の終りに〈Pacific 231〉(Pacific は機関車の名前)を完成し、運動の形象化に成功しました。一方、アメリカのアンセイルGeorge Antheil (当時パリに住んでいた)は、1924年に飛行機のプロペラ音、線路、警笛等と、普通打楽器として使われているものを使用して《Ballet Mecanique〉という作品を書いています。映画音楽として書かれましたが、ピアノ4台と打楽器合奏という大きなもので、打楽器群がオーケストラの役割をはたし、飛行機の爆音が何回か作品の途中で使われています。「幻の打楽器音楽」でしたがようやく楽譜も出版され、折おり演奏されるようになりました。この作品の初演は1925年シャンゼリゼー劇場で行なわれ、彼はアメリカのBad Boyとして有名になりました。

 次に重要な貢献がなされたのはハンガリーのプダペストからでした。1926年、ベラ・バルトークは、ほとんど全体が独奏ピアノと打楽器だけで書かれた楽章(第2楽章)をもつ「ピアノ協奏曲第1番」を書きました。スコアには演奏者に対し、彼が欲する音の出し方がこまかく指定してあります。彼は一度、自分が欲する正確な音を得るべくシンバル奏者を集めようとしたが徒労に終ったという話があります。ところで彼は、10年後に二つの偉大な作品を残しました。『弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽』と『2台のピアノと打楽器のためのソナタ』です。打楽器奏者は、20世紀作曲者たちにより課せられた技術的な要求と取り組まねばならなくなりました。打楽器奏者にも創意が必要になったのです。

 打楽器における次の大ニュースはニューヨークから届きました。そこではシロニムスキNicolas Slonimskyが1933年3月6日、エドガー・ヴァレーズによりパリで2年前に作曲された、今では古典として扱われている〈Ionisation〉の世界初演を行ないました。13人の奏者が42種の打楽器を打ち、こすり、振り、ビアノ、チェレスタも使われ、持続音の役割を二つのサイレンに託し、Lion Roar(ライオンのほえ声) というQuica の原理をより大きな太鼓に応用した楽器も登場しています。

 このどえらい作品は常識的な音楽界に多大なショックを与え、打楽器音楽の作曲において「何でもよい」という傾向をもたらしました。しかし、勝手なことをしていたのではありません。1921年、国際作曲家組合を組織し、「作曲家は今日、創造者として聴衆との直接の結びつきを決して拒否しているのではない。むしろさまざまな場で、創造者は聴衆と直接に結びつく何らかの形をさがそうとしているのだ。だが作曲家は聴衆との中間に、常に媒介者としての演奏家を置き、それに頼らなくてはならない。ここに問題がある。時に彼等は理解しようとはせず、無作法な審判者として新作を拒否する。だが死ぬことは、使い果たしたものだけの特権である。今日を生きる作曲家たちは死ぬことを拒否する。彼等はお互いに結ばれ、正当かつ自由な作品発表の場を確保するように、各個人の権利のために戦うことの必要性を認めた。こうして国際作曲家組合は誕生したのだ・・・」と述べています。壮大なオーケストラ作品、《ARCANA)は120人の音楽家を必要とし、1927年、フィラデルフィア・オーケストラとストコフスキーによって初演されています。彼は20世紀音楽の実験的な方向の先駆者としてばかりでなく、現代音楽のさまざまな問題の焦点に立っている重要な存在でした。

 William Russell はHenry Cowell、John Cage、Lou Harrisonを含むカリフォルニアグループの1人として『8つの打楽器のためのフーガ』(Three movements)の代表作があり、フォークでピアノの弦をはじき、両肘を使ってのトーンクラスター、ビンを割る等、指示しています。7拍子のワルツ、3拍子のマーチ、5拍子のフォクス・トロットと、一風変わった拍子ですが、巧みに書かれた作品です。

1993.7

ディスコグラフィー

・ストラヴィンスキー「兵士の物語」コクトー(話り)、マルケヴィチ(指揮)
・G. Antheil (Ballet Mecanique)The Kroumata Pere. Ens. LCMC102
・バルトーク「ピアノ協奏曲第1番」ポリーニ(p)、アバド/シカゴ SO POCG1134
・同「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」バーンスタイン/NYP SRCR 8971
・同「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」アルゲリチ、コワセヴィチ(p)他PHCP3519
・ヴァレース「イオニザシオン」アマディンダperc. グループHCD 279
・同「アルカナ」メータ/ロスアンジェルスPO POCL 2346

参考動画:


・ストラヴィンスキー「兵士の物語」コクトー(話り)、マルケヴィチ(指揮)
 


・G. Antheil (Ballet Mecanique)
 


・バルトーク「ピアノ協奏曲第1番」
 


・バルトーク「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」
 


・バルトーク「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」
 


・ヴァレース「イオニザシオン」
 


・ヴァレース「アルカナ」