パーカッションのルネサンス 33

パーカッションのルネサンス
打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第33回
• 「おどるねこ」の中にUP感覚を見つけよう

有賀誠門(打楽器奏者)

最近の学生をみていると、日常の基本動作ができません。とくに体を移動させる訓練がされておらず、非常に不自然な動きをみせているのが特徴です。クラシック音楽を勉強している人がStepを踏むという動作に馴れていなさすぎます。体を動かすことに積極的でなく、動きに対するイメージも不足しています。

音楽リズムが頭で考えられたものであり、実際に身体を張って体感したものでないため、表面的です。全体を支配するビート感も不足しています。エネルギーも湧いてきません。しかし、身体で体感したリズム運動は、内部から突きあげてくるからこそ、活きたリズムなのです。身体を張るとなれば、スポーツか武道になるわけで、その張った結果は、数字なり勝敗として出てきます。

クラシック音楽に目を向けない一つの理由ではないでしょうか?ロックやカラオケなど自分の意志を出し得るものに熱中するのもわかる気がします。

さて3拍子ですが、私たちの日常生活ではなかなかお目にかかることがむづかしいようです。1、2、3と数えても、その数える深層リズム感が下への運動なのです。しかも、頭で考えた感覚なので息をするのがむづかしい。たとえば、

のリズムをふつう縦に
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と取るので4分音符3個が早くなってしまうのです。横に感じることが大切なのです。では横に感じるとはどういうことかというと、体を前に、横に、後にと移動させることなのです。縦というのは、同じ位置に立ち、膝の屈伸運動なのです。ワルツのStepについては前にも書きましたが、もう一度やってみましょう。

このStepを踏むには、歩く運動から裏拍を感じられないと表面的な運動になってしまいます。歩く運動リズムこそ、すべての音楽への第一歩のような気がしてなりません。歩く時、

この運動をイメージしましょう。そう!
足が離れた時(足指で地面を蹴った瞬間)を「1」と感じるのです。すると、足が地面についた時が裏になります。シンコペーションが感覚できて、何とも不思議な感じがします。試みて下さい。足がup, upとなり、軽快な足どりになり、裏打ちがしつかりと感覚できます。

L. Andersonの《The Waltzing Cat》

を例にして3拍子を勉強しましょう。

行進する速度が約120ですから、60はそ の二分の一です。テンポが出てきたでしょうか。
スタッカートですから軽いStepです。

3拍子は通常、三角形に振りますが、この「1」を 下にポイントにとり、「2」が流れて「3」 の位置で止まり、「3」がupする。この ように振る人がほとんどです。そこで、

と、「1」を下に「2」「3」を上で感じてみて下さい。そうすると「1」の位置がはっきりイメージできてきたと思います。そうすると、「2」「3」もはっきりPointがとれると思います。その感覚が体感できたら、

を表現してみて下さい。譜①をみて下さい。

をはっきり、軽く、3拍目はUpで次への用意。この4小節が全体の象徴になります。譜例②の1小節目、H、C、Dとエネルギーが伝わっていきます。4小節目のH、D、Cに注意する。5、6小節と来て
7小節目のCにストレスが来ます。軽快ながら、それぞれの音の関係がはっきりしてきたでしょう。その関係エネルギーを感じると思います。

譜例③piu animatoの1小節前は各拍ともはっきりさせ、とくに3拍目が早
くならないのがカッコ良いと思います。
譜例④1、4小節目の2、3拍がupで躍動感を出して下さい。
譜例⑤2、3拍にアクセントがついています。

よって2、3拍をはっきりUp感覚で表現して下さい。これで皆さん、おしゃれなワルツを踊る猫の表現ができたと思います。このように親しみやすい音楽の中にUp感覚を見つけ出すことができると、音楽がなおさらに好きになります。

 

(1996.7)