パーカッションのルネサンス 31

パーカッションのルネサンス
打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第31回
• Up感覚で「白鳥」を弾けば

有賀誠門(打楽器奏者)

 多くの人々が―プロフェッショナルを含め―カウントする時、あるいは、お互いに第1拍を合わせる時、「せーの、”ドン”」とかいって、「音」を出します。この感覚は音楽演奏には誠に不適当なのです。

 2月号でも述べましたが、この「せーの」の感覚は、「せー」と下に「吐く」運動のため、「の」で吸い上げるはずが、吸いの運動になっていないのです。「吐く」運動リズムのため、常に息が足りない状態がつづきます。現象として前のめりのカウント感になりやすいし、1拍に対する感覚が、かなりはやくなり、非常にせわしくなります。この感覚で6/8拍子を演奏すると何ともうるさくなります。

 「早春賦」を見てみましょう(譜例1)。

ピアノパートのベースの感覚はレガートです。F→ A→ D→ B♭→ C→ C→F。

♫の感覚は、そのハーモニーが立ちあがり響いている感覚です。風景でいえば、大きな木が自然に茂っている、いや立っているのです。その木を皆さん自身におきかえると皆さんが響いているのです。体の中から泉の如く涌き出てくるエネルギー、立ち昇るエネルギー、何とも素晴らしいではないですか! 3拍、6拍を大切にして下さい。短くなくレガートで!旋律も同様に歌って下さい。コード進行は単純ですが、実に音楽的です。ドミナント→トニカの関係を思い出して下さい。

 この感覚で有名なサン・サーンス作曲「白鳥」を弾いてみましょう(譜例2)。

 まず全体をどのような速度感で進めるかが最も大切です。さて、できたでしょうか? Up感覚で表現できればすばらしいです。

 Anclantino graziosoのfeelingはどうですか? あまり落ちつかない方がいいですね。graziosoがミソです。踊り、おしゃれな感覚です。ピアノIIのパートをみましょう。1拍目が低い位置、4拍目が高い位置です。空中でやってみて下さい。貴方が踊っている感じになりましたか? 低、高、低、高・・・。

 次にピアノI の右手は16分音符です。

 しかも

と各拍のウラが最初の音のオクターヴ上にあります。ピアノIIと同じ音型です。

 これで「のり」が出てきましたね。白鳥が湖面をすべるように泳いでいる、いや音楽が踊っている姿がみえます。うきうきしたリズム感が出てきました。

 旋律はとどまらないように弾いて下さい。

となっています。

3拍、6拍に注意して下さい。

 音と音の関係が実に巧妙に連続しているのがおわかりいただけたでしょうか。これでAndantinoの意味がわかったと思います。前に進む運動が一つひとつのつながりで進みます。Up 感覚で歌えれば、何もいうことなしです。単純ですが、素晴らしい音楽です。

 

(1996.5)