パーカッションのルネサンス 32

パーカッションのルネサンス
打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第32回
• ノルウェー舞曲」IIはUp感覚に最適

有賀誠門(打楽器奏者)

 先月号でも書きました。「せーのオ」「ハィッ!」という合図は不適当であると。けっこうこういう発想の指導者や演奏家が多いのです。息使いに対してあまりに無頓着で、困ります。子ども、アマチュア、学生など、何も知らない人たちに対して、息使いは何よりも大切であることを肝に銘ずるべきです。

 相手に何かをしてほしい時、合図を送ります。あるいは自ら何か行動を起こすとき等、相手、自らに息を与えるのが最も大切です。

 このような行為は様々なところで行なわれ、見られます。たとえば、相手に椅子にかけるよう促す(あるいはかけていただく)時、ただ「どうぞ」というのでなく、差し出した右手なり左手をハイッ!と下から上に高くあげ、右(左)回転させながら「どうぞ」と行為を促す。この行為は聴衆、観衆に対するあいさつと同じです。ただ頭を下げるのではなく、一呼吸Upして頭を下げる。何か物を相手に丁寧に渡す時にも行なわれる行為です。

 お互いの手を取り合い、Danceをはじめる時も同じです。ハイッ!どうぞ!この「ハイッ!」の感覚が何ともいえないのです。相手に息を与えるので椅子にかけやすいのです(図1)。「ハイッ!」のPoint 感、どの位置(見えませんが)か、そのPointが次へのPoint、また次へのPoint というふうになっていくのです。上に引っかけていくfeelingであり、常に上に新しいPointを決めていく感覚です。邦楽での「ホッ」PON!「ホッ」PON!という、掛声とPONとの絶妙なるタイミングをぜひとも身につけてほしいと思います。

 2拍子を振るとき、指揮法では図2となっていますが、この「1 」の感覚がどのような感覚か、教えられていないのです。十分な息を与えられないで「1」を振りおろされると、息をつけなくなるのです。しかも「1」のPointがどこなのかわからないため、1、2、1、2と振っていく様は下に下に向けられた運動になってしまうのです(図3)。

 そうではなく、十分up↑ (息を与え)Down-Up Up Down-Up Up•••• 「1」のPointが決まるようになったでしょうか?(図4)

「チョン」「スー」「チョン」「スー」......というfeelingでもあります。「スー」「チョン」「スー」「チョン」でなく。

 では、この感覚を最もよく表わしている「ノルウェー舞曲」を演奏しましょう。

 冒頭の

が作品全体のリズム感をとりしきります。 頭打ちをjump力、強くして下さい(譜1)。

まず初めのA、C♯、EのfeelingがこのDance の特徴を表わしています。3小節目がやや「→←」(縮まる感覚)、そして4小節目で「←→」(拡がる感覚)、5小節目のEと4小節目のEが8度ですので5小節目のEは8度の緊張を持続させることです。5小節目の2拍目

のfeelingは「-」tenuto のfeelingです。次のフレーズも同様です。

 譜2のようにニツ目が高い音ですから、上へのfeelingが感じられるはずです。4分音符はjumpのエネルギーが必要ですから「ダー」「ダー」とはならないようにして下さい。Allegroの9小節目

ではsf の小節の頭に「より強い」Energyを与えることによってsf の感覚を与えることができます。

 最後の7小節をみてみましょう。ティンパニが次のリズムを与えています。

 2小節目の

が、Allegroでのアクセントのある小節のリズムと同じことがわかったと思います。終わりの3小節のリズム形は譜3のようですから、頭にAccentをつけたfeelingにするとリズムが生きてきます。Up感覚の例として最適な曲です。

 

 

(1996.6)