パーカッションのルネサンス 34

パーカッションのルネサンス
打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第34回
• ヴィヴァルディの「春」を音楽しよう

有賀誠門(打楽器奏者)

Up感覚を毎日、毎時、毎瞬、感覚することができるようになってきたでしょうか?なかなかむつかしいと思います。歴史がそのようになっていなかったからです。生活のリズム感は息使いのリズム感でもあり、そのリズム感が精神的なところも支配してしまうからです。しかも音楽に対する社会の考え方にも影響を与えてしまいます。体のリズム感すら変えてしまいます。非常に大切なリズム感がUp感覚なのです。

 Up感覚の大切な現象の一つを試みて下さい。図形では次のようです。この形をするものをすべて連想して挙げてみましょう。

 その一つ、歩く(自分の身体を移動させる運動)行為についてちょっと注意するだけで感覚が変わります。ふつう、足を放り出し地に着いたところを「1」として感覚していますが、地面から離れる(親指で地面を蹴り上げる)瞬間を「1」として感覚するのです。足が宙に浮いている時間が感覚できるようになるといいですね。足裏が地面に着いたところを意識するとシンコペーションを感覚できます。地面と親指でsnapしていることがわかったと思います。この動きを大げさにしたのが、タップダンスになっているわけです。ラグタイムにシンコペーションが多いのはこのためです。この感覚でしばし歩いてみて下さい。

 体を運ぶのが楽しくなってきませんか?足がswingしてくると歩くのがより楽しくなってきます。カウント感がup、up、upとなってきましたか、swing、swing、swingとなってきたでしょうか、首もswing、swingとなってくればしめたものです。

 指によるsnap運動と首のswing運動を同時にしてみましょう。さらに腰も一緒に前後運動させるのです。腰を後前運動にしないようにして下さい。さらに声を伴うようにして下さい。カウント感がswingしてきましたか?手を4拍子にswingさせてみましょう。

 さて、ヴィヴァルディの名曲『四季』の「春」を音楽しましょう。この作品のリズム形などを見てみますと、いきいきとしたリズム形で書かれていることがわかります。しかもAuftaktではじまっていますから、このためによりワッショイ運動をすることになります。注意するのは(譜例1) 2拍、4拍の裏にあたる16分音符の2個の感じ方です。たいてい1、2、3、4、のカウント感が実にあいまいなため、さがってしまっているのです。


 
まず冒頭をいきいきと発音して下さい(譜例2)。次に2拍目のG#、3拍目のHにかなり強いエネルギーが必要なのです(譜例3)。大きく「あおる」AuftaktのEが出る。1拍目のG#との関係は非常に「+」感覚です。そのリズム形が

2拍目を3拍目のHに行くために、1拍目のG#よりエネルギーを(Hのために)使う。3拍目のHは4拍目の頭までしっかり伸ばす。Tensionを下げないことです。

 2拍裏、4拍裏の

と感覚せずに、歯車がまわっている感じとでもいいましょうか(図1)。最初のフレーズの最後も気をつけましょう(譜例4)。
同じリズム形でも音域が広くないところは、自ずとのどかな風景をつくつています(譜例5)。

 第2楽章はLargoですが、舞曲のリズムですから遅すぎないように。Violaの

を「のり」で奏すること。これもカウント感はupでやって下さい(譜例6、7)。

 第3楽章、

のリズム感はどうも苦手のようですが、マスターしなくてはなりません。ダンスリズムですから、ゆっくりカウントし、次第に速度を速めていく。あるいはすぐにスキップで試みてみましょう。ベートーヴェンの第9交響曲にある『歓喜の歌』の旋律に似ていますね。Up感覚な曲です。

 

(1996.8)