パーカッションのルネサンス 6

打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第6回
— 「up感覚」のはなし:交響曲第5番

 Swing感を体感するためにはどのようなことがあるでしょうか。ブランコ、ゆりかご、縄跳び、足の振り上げ、バットの振りなど、様々な現象がありますが、共通していることは、A点とB点の2点における振り動かし運動であり、その間に起こる「ある”のり”」を体感することがとても大切であること。足を振りあげてみましょう。地面から足を離す時が「発」pointであり、上げた頂点をポイントとしません。

と振ってみて下さい。イチニイサンシイと発音すると、どうしても

と最初が長くなりがちなのです。ですからわが国の指揮者は、ゆっくりな速度を分けて振る場合、イチトウニイトウサントウ・・・と、「スーチョンスーチョン・・・」と振り分けるのです。バーンスタイン率いるニューヨーク・フィルハーモニックが来日した時、彼がベートーヴェンの第3交響曲『英雄』の第2楽章をどのように振るかと非常に興味をもち、期待していました。違ったのです!! 「チョンスーチョンスー・・・」だったのです。「チョンスー」でやりますと、頭のポイントがはっきりするので、ゆっくりなテンポでも振り分けることなく大きく4拍子なり、3拍子で振れるのです。この「チョンスー」の感覚は、足を振り上げ戻すと同じ運動感覚です。また横運動でも同様で右側、左側と、あるポイント間を、手を横に移動させてみるとチョン(伸)スー(縮)となるのがわかると思います。ある一定のテンポが何とも気持ちよい動きで運ばれるのです。このような感覚で歩きますと上半身は反る・戻る・反る・戻る運動が2倍の速さで動くことになります。鳥は2本足です。人間も2本足です。鳥が歩いているのを見て下さい。Up 感覚にならざるを得ないのです。第4 回で書きました「響きを上に」の感覚です。

 2点間でのSwing 感をおぼえましたら、1点でその感覚を試みて下さい。一つひとつの音のポイントとポイントの間にSwing 感が出てくるでしょう。それが「うら」を感じた”のり”なのです。その「うら」をもったビートは何よりも強い生命力をもっています。

 さて、ウィーン古典派音楽の第1 楽章は、ほとんど行進曲であることに気づいて下さい。ソナチネ等は実にわかりやすい西洋音楽の本質なのです。これほど楽しい作品が技術の練習のためだけに使われていることに悲しい思いがします。有名な旋律ですが、2拍、4拍に注意して

歌って下さい。しかも2 小節目の×印が

3小節目のG音に入るために非常に重要なリズムなのです。それぞれに「うら」がありますから

となり、3小節目のG音に入るのに用意がなされるのです。

モーツァルトのほとんどの作品はのり音楽です。クラシック音楽で彼ほどSwing感ある作品を書いた人は他にいません。

さて、第5交響曲です。

の場合、2 拍目をupと感じ2 小節目の2分音符に十分注意を払うこと。6小節目からの

と2拍子を保持していきます。

と、リズムを変えてみて下さい。このリズム形の場合、2 拍目がdownbeat ですが、体はU p 感覚で次への予動となっています。そうすると次の頭が非常に強いストレスをもちます。このストレスが体を持ち上げるのです。『ダッタン人の踊り』のリズムを思い出します。ドライヴのきいた演奏になります(譜例1)。そして提示部の最後は

となり、くり返し前の2小節のゲネラルパウゼの意味がわかってきます。

 第2楽章は、2拍目に注意です。

       ↑
「チョンチョンスー」でやってみて下さい。

大体l 、2 、3 と振る場合、1 がdown になり2が流れてしまうのです。「スースーチョン」となる人がほとんどです。

を躍動させるには各拍を「チョン」とつま先を支点に、かかとをUp 感覚にします。第3 楽章も2拍目に十分注意して下さい。

としないことです(譜例2)。

(1993.4)