パーカッションのルネサンス 2

打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育-連載第2回
「第2回ルクセンブルク打楽器コンクール パーカッショントリオの巻」

有賀 誠門

 今回は番外として、珍しい打楽器三重奏の国際コンクールがルクセンブルクで開かれましたので、その模様をお知らせすることにします。期間は11月3日から11月9日まででした。SABENA航空機で成田を発ち、モスクワ経由、ベルギーの首部ブリュッセルに到着、ホテル・アミーゴに宿泊し、翌日汽車で3時間、ルクセンブルクに入りました。

 ブリュッセルは中世そのままの石畳の道路、いかにもヨーロッパらしい風景がいまも息づいています。夜のがらんとした薄暗い街の灯が静かに昔を物語っているようです。それぞれの石が、鉄柵が、様々な生活道具が、何かを語りかけている、そんな感じがしました。特別にサーチライトで照らし出された昔の王宮が何か異様に映るのは何とも不思議な気分です。朝、その広場に出てみると、鳥の市がたっているのにびっくり。色あざやかな小鳥から大きなアヒルまで様々。しかも餌までが取引きされているのです。これで商売が成りたつのも不思議です。

 さて、ルクセンブルクは谷と岩の中にある神奈川県と同じほどの大きさの小さな国です。秋の紅葉が素晴らしく、有名なアドルフ橋の下の散歩道を歩いてみましたが、時がとまっているようです。樹はそのままに立ち、見事に変色した葉を落とし、緑の草の上にジュータンのように敷きつめられている。日本の都市でこのような風景がみられるところはないのではないでしょうか。かならず手が入れられてしまうのです。大きな重い石をアーチ形に積み重ね、壮大な橋がどのように造られたのか、その設計した人たちの知恵にただただ感嘆のほかありません。

ルクセンブルクの風景(イメージ)

 さて、コンクールは 15 団体のエントリーがあったのですが、色々な事情で欠場したのが 6 団体あり、結局 9 団体で第 1 次審査が行なわれました。会場となったのは、新しく建てられたルクセンブルク音楽院で、ロビーには古楽器が展示されており、楽しい雰囲気がありました。ヨーロッパの列強に様々な状況を強いられてきた小国でありながら、また歴史的にも古いルクセンブルクが、新しいジャンルである打楽器アンサンブルのコンクールを行なうという先取の精神に頭が下がります。国全体がバックアップしているところが素晴らしい。日本では打楽器アンサンブルといってもメジャーに扱われませんが、向こうでは音楽表現の一つとして認められているのです。審査員も豪華で、デンマークのBent Lylloff、アメリカのJohn Beck、ドイツのSiegfriedFink、フランスのClaude Giot、地元からPaul Mootz 、院長でもあるSax奏者のRoland Hensgen、日本から小生と、6ケ国から集められました。毎回3曲が課題になり、第1次の課題曲はシロフォン、ヴィブラフォン、マリンバのために書かれたHeinrich Konietznyの”TRIADE”で、12音技法ながらよく計算された半音によるトーンクラスター、半音階とあり、繊細さを要求されるもので、ピンポン玉で弾かせるユーモアある作品。次に6曲の中から選択、最後はグループの自由曲、という具合です。ハンガリーからのグループの味のある演奏が印象に残ったのですが、2次で消えてしまったのはそれだけまだ未熟さがあったのでしょう。ROBOJOというスウェーデン、ノルウェーの混成グループは2 m近い大男の3人で、なぜか靴をぬいで演奏するのです。しかし、しっかりしたリズム感覚とダイナミックスが何とも気持ちよく決まり、打楽器アンサンブルの見本といった感じでした。大味ながら結局、彼等は1位を得たのでした。

 フランスからのACTE TROISは、リヨンのオーケストラ団員等で組んでいるとのこと、かなり演奏体験を重ねているように感じました。最終回に残った1団体でしたが、最終ラウンドの課題曲、武満徹による『雨の樹』(2台のマリンバ、ヴィブラフォン、クロターレ)の演奏は素晴しく、武満サウンドをこれほど見事に演奏したのを聴いたことがありません。しかし、ダイナミックな作品の場合にやや弱く、3位に入賞。私は彼等の音楽性を評価したが残念でした。2位にはスウェーデンからのStockholm Percussion Trio が入賞しましたが、ダウン指向の演奏で私としては体質的に合いませんでした。最終ラウンドで一柳慧の『風の軌跡』を演奏しましたが、pp、p、mp のデリカシーの欠如、legatoができないので音と音が連携しないのが、かなり気になったのですが ・・・。

 しかし、国際コンクールの最終課題曲に武満、一柳両氏の作品があてられていることが大変嬉しく、ハンガリーが杉浦正嘉氏の”HRDAYA”を、フランスが新実徳英氏の”ENLACAGE II”を取り上げたこと、電気関係の仕事をしながら趣味でピアノを弾くというA. Marinovの”COLLAGE”、コンクールのために書かれた新作”TROIKA”があり実に有益でした。聴衆は子ども、老若男女多数。首相、外相、市長も一般聴衆としているのがとても印象的でした。

1992.12