パーカッションのルネサンス 23

パーカッションのルネサンス
打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第23回
• 「永遠に1なるものが・・・」

有賀誠門(打楽器奏者)

 音符という記号について考えてみましょう。全音符はいくつでしょうか?さっと答えられる人はなかなかいないようです。

 付点2分音符の中に128分音符はいくつあるでしょう?とは20何年前に友人からたずねられた問題でした。その彼によって私は目を覚ますことができるようになりました。

 そう!全音符  は1です。

 永遠に1なるものが多に分かたれる。しかも1であって永遠にただ1つである。1の中に多を見出し、多を1のごとく感ぜよ
そうすれば芸術の初めと終りとが会得される ―ゲーテ「バキスの予言」より(高橋健二訳、弥生書房)

 この考えでは「有る」ことがすべてであると思います。「存在する」ことのすばらしさを直観するのです。すばらしい音楽作品がある。その中に4分音符、16分音符、さまざまな音符が並び、1つの構成をもった作品と仕上がっている。その音符をどのように感じるかは、非常に意味があることになります。同心円で音符を書いてみるととてもよくわかると思います。(図1)

 ふだん、私たちが使ったり、見たりする音符は大体32分音符どまりだと思うのですが、J.S. Bachの無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番には128分音符が書かれているのです。(譜例)

 Bachの描く音楽の世界を想像してみましょう。言葉では言いあらわせない大きさ、拡がりがあり精神の向上を感じさせてくれます。

 さて、テンポ標示はふつう音符の次に速さが書かれています。♩=90とか♪=120と・・・。逆に90=♩、120=♪としてみて下さい。

 イメージとして、いかにテンポが意識されるかおわかりでしょう。

 音楽が「回転運動」の一つであることをイメージするために次のようなことも考えてみました。(図2)

 押しやるエネルギーは、「いま」という瞬間に発生し、その「いま」を支えつづけるのです(図3)。「いま」に集中していることの素晴らしさ、と真剣さは、自然そのものであり、あらゆる分野に通ずるものであります。生きることの素晴らしさ、きびしさ。音楽をして、このような現象を体感できることは大変幸せです。永遠に1なるもの、魂が生きつづける―生きることは芸術になり得る。

 Up感覚は、常にhighな気分にしてくれ、上へ上へと、階段のない空中を昇っていく、天国に昇る感覚ともいえます。たしかなbeatと共に!

 

 

(1994.9)