パーカッションのルネサンス
打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第28回
• 『ボレロ』のリズムはUp感覚でこそ
有賀誠門(打楽器奏者)
音楽は回転している。人間は回転している。行為は回転している。時間は回転している。自分を回すには自分でエンジンをかけなくてはなりません。丸太なり重力のあるものが静止している。それを動かすには力を加えねばなりません。その重力以上のエネルギーをかけなくてはなりません。
「重力」と縦に書くと「力」は下になります。その「力」を上にあげ「重」のとなりに置くと「動く」という漢字になります。それに「イ」(ニンベン)―人間―を左に書きますと、「働く」になります。自分の体を動かすには、(いろいろな意味で)エンジンが必要です。「ウン」と腹の底からのエネルギーです。「唸り」とでもいえると思います。
以前にも書いたことですが、カウント(count)する―数を数える―の運動が「うなずく」運動にならないことです。図1のように。体全体の動きは、up運動が前進する運動(上向運動)です。
この感覚で図2のように数えて下さい。または図3のように続けて下さい。この運動は上向運動です(図4)。図5、あるいは図6のようにすれば、図7となって「×」のところにポイントが無意識に入っているのです。この運動はまぎれもなく下向運動であることはおわかりでしょう。(図8)
さて、3拍子を数え、棒なり手なりを振った場合、多くの人が「2」のポイントに注意をはらっていません。ほとんどの人が図9のようになり、「2」のポイントが下向運動の「2」の感覚なのです。指揮法なる本をみれば図10となっていますが、現実は違うことが多いのです。イチ、二、サン・・・の発音が最も大切になります。とくに「2」(二)の場合、ひっかかり(アクセントになるもの)がありませんから、ながれてしまう、これが原因です。図11のようにpointを「はっきり」させて下さい。すなわちエンジンをはっきりかけることです。
この感覚で先ほどの図10を振って下さい。上腕をしっかりと振って下さい。肘がうまく連動するようにして下さい。「うらのり」ができるSwing 感で振りましょう。何より、腰と足がしっかりしていることです。上半身は自由に動けるようにしましょう。
ラヴェル作曲の『ボレロ』のリズムは譜例1となっています。これを図10で振ってしまうと、どうしても「1」が下向運動で感じてしまいがちです。前進運動(上向運動)あるいは移動運動ですからUp感覚(突き上げ、あるいは伸びた感覚)で感じて下さい。さらに「2」が流れてしまうと『ボレロ』のリズムが下向運動になり、重さが加わり、おそくなってしまいます。Up感覚ですと、
の3連符が次へとつながり、何ともいえぬ(譜面には書きあらわせない)feelingが出てきます。旋律も「1」「2」の感じかたは「ウン」「ウン」です。「3」も「ウン」ですが、up (アナクルーズ)で次へとつなげます。7、8小節の持続音では絶対に「気」を抜いてはいけません。
いままでと違う『ボレロ』が歌えるようになりましたか? テンポの正確さでなくBeat! が必要なのです。
(1996.2)