パーカッションのルネサンス 13

パーカッションのルネサンス
打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第13回
―「有機的な音階」のはなし:『アメリカンパトロール』を歌おう

有賀 誠門

楽譜は、音楽としての響きの立体現象を音符という記号を使って平面的な1枚の五線紙に書きしるしたものです。平面に書きしるした立体像を、文字(やはり平面に書かれたもの)を使って立体的に説明することは極めて困難であります。音楽を文字にしたものから理解するのは不可能であるため、レッスンという体験が不可決であります。

 「古池や 蛙とびこむ 水の音」(芭蕉)

のような表現ができればいいのですが・・・。

 そこで音楽には、宇宙のひろがり、自然、意識といった抽象概念が入ってくるのです。とくに空間に対する感覚は非常に大切です。しかも人間の心に働きかける強い力をもっています。

 さて、今回は音階の感じ方を試みてみましょう。たとえば譜例1を発声してみて下さい。第4、5、6、7回の「Up 感覚の話」を参考にしながら、足をやや開き、両手を上に差し出しながら出す。自然と顔も、目、口も上に向いて、開いていきます。ちょうど、水泳の時に両手を前に出して息を吐く形と同じです。

 高笑い、うがいをする、あくびをする等も似た運動現象です。できるだけ長く鳴り響かせて下さい。体全体を振動体にして、響きを遠くへ運ぶ感じです。大地の気を足の裏から吸いあげ、腹の下からそのエネルギーを管を通して放出する。しかもそのエネルギーがとめどなく湧き出てくるようにしましょう。自分の体を一つの共鳴管にするのです。回りと共振するつもりでやって下さい。そうすれば回りのものが共振してきます(図1)。なによりrelaxが大切です。

 では、両手を上にあげずに発声してみましょう。下あごが下がらないように、

のfeelingでやって下さい。

 次に口を開けた位置をsetして下さい。そして長く響かせます(図2)。

 C からD を試みて下さい(譜例2) 。Cに重力を加えることによってDが出てきます。そのためにこのD はC に戻りたい習性をもっています。何回か譜例3を繰り返して下さい。

 次にDはE♭(D#)へ行きたいのです。このE♭(D#)はDに戻りたい習性をもっています(譜例4) 。さらにDはCに戻りたいのです。譜例5を繰り返してみて下さい。

 さて譜例6を試みましょう。何とE♮にかなりのエネルギーがかかることに気がつきましたか? E♮はFに行きたいのです(譜例7)。FはE♮かGに行きたいのです。Gに行ってみましょう。ちょうど、山の中腹の広いところに出た感じ、広がったfeeling が出てきたと思います(譜例8)。GはAに行きたい。AはGに戻る習性をもっています(譜例9)。

 さて、AからB♮に行きます。何かにつかまりたい、不安な位置を感じるでしょう(譜例10)。どうしても上のCにおさまりたい! Cにつかまって下さい。ホッとしましたね(譜例11)。

 ただ音階を「ドレミファラシド」と声に出したのとは全然違う感覚を知ったと思います。譜例6のようにいった時、D、E♮ の間のエネルギーから長調(dur)がいかに強い感覚をもっているか体感したと思います。この感覚を体で表現できるようになりますと音楽をより有機的に感じられ、楽譜の読み方も音と音の関係エネルギーで読むことができます。譜の『アメリカン・パトロール』を読んで、歌ってみましょう。

(1993.11)