パーカッションのルネサンス 15

パーカッションのルネサンス
打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第15回
― Swingしなきゃクラシックはおもしろくない!その2

有賀 誠門

 犬をつれて歩いたり、魚を釣り上げたりする時、私たちがふだん使っている力とは違い、かなり抵抗感のある力を感じます。体全体を使ったエネルギーの強さは何にも代えがたいものです。鮭が産卵のために古巣の河に戻ってくるという、その全生命をかけての行動にそう絶な思いを抱かざるを得ません。

 さて魚が釣竿を引っぱる力は、ちょうど私たちが体全体が具合悪い時、「ウン、ウン・・・」と唸る力に似ているような気がするのです。あるいは、全力を出して「押す」、「引く」行為も同じです。しかし、押す、引く、という行為は物ごとがあまりに便利になってしまったため、体をほとんど使わなくて済むようになってしまいました。

 音楽を勉強しようとする時、拍を数えるということをしますが、その「数える」―数字を言う一pointが非常にあいまいであり、口先だけで言っているのです。そのようなあいまいな拍子感覚の上に旋律が乗っかっている。これでは相手を説得するだけのエネルギーは伝わりません。現代は、このような虚弱な拍子感より、何よりも活きたビートを必要としているのです。しかも、ありがたいことに人間の動きは、実に「のり」がよいようにできているのです。クラシック音楽を勉強している人たちにその「のり」をぜひとも体感してほしいのです。

 それには「呼吸」が何より大切です。すべて「吐く」0(ゼロ)にしてからゆっくり「吸う」。一杯になったら(胸式でなく)ゆっくり「吐き」つづける。下から吸い上げ、上に吐く感じです。ちょうど、平泳ぎをする形と同じです。または両足を軽く開いて立った姿勢から両膝を軽く折り腰の上に上半身を置く。足から気を吸い上げながら、両手を前に出す--親指を軽く握った状態で--あるいは指を伸ばしたままで、手の平を上にした状態から伸ばしながら手の平を下に向ける。息を吐きながら肘を曲げた状態に戻す(空手の形と同じです)。吐き終わり、吸い始める、その瞬間に両手をふっと出し戻す。この行為を何回か続けて下さい。タイミングをおぼえて下さい。武道で最も大切なタイミングです。吐き終わった--吸い始める境目が最も大切です。

 次に体の中の酸素をできるだけ残しながら、一瞬だけ吐く、その吐いたわずかな間に吸いあげるのです。

 胸式でやると肩に力が入ってしまいます。とにかく上半身はリラックスです。これができると、両手、両足を全然動かさずに水の中に沈まないでいられます。気を常に体内に保つわけです。

 この状態を常にできるようにして下さい。はじめは馴れるまでむずかしいかもしれません。しかし、馴れれば何でもありません。プールなどで試みて下さい。中々沈まないものです。この感覚で1、2、3・・・とcountしてみて下さい。1↓、2↓、3↓とはいきません。1↑、2 ↑、3 ↑、・・・といいタイミングでcountできるはずです。またはチョンス-→、チョンス-→を繰返してみて下さい。スーといって吐くのではありません。「,(チョン)・・・,(チョン)・・・」という感じです。もっとわかりやすいイメージは、風船に紐をつけ空中に浮かばせ、その紐をちょっと引っぱったfeeling。風船はすぐにもとに戻ります。上昇気流の中で、一瞬息を吐く感じです。

 Bach作曲、2声のためのInvention No.1を読んでみましょう。冒頭の16分休符でウッと息をつめるのでなく、スッとぬいて下さい。アッ忘れた!とか、アッ思い出した! 等、このようなタイミングは日常よくあることです。

 そんなfeelingでいくと最初の

が、

でなく

とすっきりと上向きに発音できるはずです。2拍目は3度のzigzagですから、前後の音をはっきり出すと何とも気持ちのよいzigzagのりになります。

 冒頭のDoと3拍目の裏のDoと1オクターヴの距離感も感じて下さい。3拍の裏、4拍の裏の

とかなりのtensionを感じて下さい。3小節目の2つ目のLaと第2拍の4つ目のLa、3拍のSoと4拍の4つ目のFa、以下Mi、Re、Do、Siと下がってきます。

 この関係の「zigzagのり」ができるようにして下さい。今までと違ったInventionになるはずです。J.S. Bachの音楽は、すべて「のり」がよいのです。現代音楽よりはるかに新鮮であり、人間の魂をゆさぶるものがあります。

(1994.1)