パーカッションのルネサンス
打楽器奏者の目から見た今日の音楽と音楽教育 —— 連載第20回
・マーチのfeelingを感得するよい方法
有賀誠門(打楽器奏者)
今まで何回か体の動かし方でリズム感が違うことを書いてきました。しかし、実際にやってみた人は少ないと思います。普段の何気ない「しぐさ」がその人の運動エネルギーですから、その人に音楽の根本を教えても、それまでだと思います。汲めども汲めども湧き出てくる泉のようなエネルギーが必要なのです。地球の中から押しあげられてきた水、押しあげる「力」、それこそ、生きている証しではないでしょうか。
Beatです。私たちも体が具合悪い時など、「ウン、ウン・・・」と唸ります。唸りがなくなった時、快方に向かうか、その反対なのです。
「波長の少し異なる波動が干渉すると唸波を作る。(中略)唸波が何回も重畳して作られた場合、その構成は大変複雑になり、それによる現象も想像を超えたものとなる。そこに生命現象の発生が考えられる」(『波動性科学入門』大橋正雄著たま出版)。
内からつきあげられて出てきたエネルギーが音楽としてあるのがブルースです。声のよい、わるいではなく、その人そのものです。
バッハも数多くの作品を創りました。おそらく、泉のように湧き出てきたのでしょう。バッハの作品には、Beatが感じられます。内省的、理性的ではありますが、生き生きしたBeatがなければ、音楽として再現できません。
このBeat感覚をつかむように皆さん努力して下さい。(図①)
頭が休止符ではじまる音楽リズムは数多くあります。休止でなく非常に重要なpointです。「ウッ」と↓ につまるのでなく(息をとめるのでなく)、スッと風を通す、ウンと気を通す、ウン⤴ウン⤴ swingする感じです。
ただスウィングだけでなく「唸る」工ネルギーが大変必要です。次の運動への意志表示でもあります。
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歩く基本を試みましょう。何人かに試みましたが、そのfeelingと足の振り出し、腰の出し方に仲々うまくいかない人が多いのには驚きました。マーチングと違い、ごく単純なマーチのfeelingを感じるのにとてもよいのです。
まず立ってみましょう。左足から前に進みます。大きく出ます。右足は先に出した左足の右側におくようにいきます。
Zig-zagと尺取り虫のように。(図②)ひざから下の動きが重要です。踵があまりに遅れて出ますと、踏みつける運動になってしまいます。腰から、すっと出るようにすることです。そして自分の体(胴)を響嗚体としての楽器とイメージしてください。手の振りがどのようになるか、確認して下さい。けっこう上半身、下半身がうまく連動しない人が多いのです。左足を大きく踏み出すと同時に右手を大きく振りあげ、自分の腹を打ちます。
打つというより、自分の腹は満腹だといった感じです。腹に手の平をあてることで自分の腹の具合、調子をみることがあります。無意識に体全体の調子をみていることになります。これを「手当」というようです。右手の腕をあげることに注意してください。右手が撥になり、自分の腹が楽器になっているのです。
左足を前に振り出し、一歩前進する。右足は「2」として左足の右側につける。右手は左手のように大きくなく、腹を打つ。自分の腹を大太鼓と見立てて、1、2、1、2、と歩いてみてください。
一歩前進する時、ウン、ウンと進んでいるのです。自分の意志でのりよく進んでいますか?
さあ、『おもちゃの兵隊』(イエッセル作曲)を口づさみながら、前に進みましょう。左足が、すーつと前に出るfeelingは、ワルツの第一歩と同じなのです。すべてのステップの基本になりますから、大事にしてください。
左、右、左、右、・・・といくわけですが、右足を地面につけた、左足が出る、そのタイミングが、大切です。よく注意してください。目線は下を見ずに、前を見通すように見ることです。自分の人生を見つづけるように―それには音楽がもっともふさわしいのではないでしょうか。
ハーメルンの笛吹き、を思い出します。自分の腹を打ったfeelingを大太鼓に表わしてみましょう。奏法を習うより、より実際的でわかりやすいと思います。それとstepを踏んでいるので、その動きのfeelingも大太鼓に表わすことができます。
しかも、今まで体の動きと共にUp感覚をいろいろな例を使って説明してきましたから、知識はより豊富になっていると思います。何よりUp感覚を忘れないでほしい、それを楽譜から読み取り、stepを踏みながら、マーチを歌ってみてください。マーチが何とすばらしい音楽か、体感していただきたいのです。
(1994.6)